遺言書があっても、遺留分侵害・形式不備・内容の曖昧さが原因で相続人同士が揉めることがあります。「遺言書さえ作れば安心」ではありません。本記事では、実務で実際に問題になる5つのケースと、それぞれの予防策を解説します。
ケース①:遺留分を考慮していない遺言
最も多いトラブルが遺留分侵害額請求です。遺留分とは、配偶者・子・直系尊属に法律で保障された最低限の相続分のことで、遺言でも奪うことができません。
たとえば、「全財産を長男に相続させる」という遺言を残した場合、他の相続人(次男や三男)は遺留分に相当する金額を長男に請求する権利があります。長男が支払えなければ、不動産の売却を迫られるなど、遺言者の意図とは逆の結果を招くことがあります。
予防策:遺言作成時に相続人全員の遺留分を計算し、遺留分を侵害しない配分にする。やむを得ず侵害する場合は、遺留分侵害額請求に備えた代償金の準備(生命保険の活用など)を検討する。
ケース②:「全財産を長男に」だけで具体的な財産記載がない
「全財産を○○に相続させる」という包括遺贈の表現は有効ですが、具体的にどの財産が対象なのかが不明確だと手続きの現場で問題になります。
金融機関によっては、個別の財産が特定されていない遺言書では手続きを受け付けないケースがあります。また、「全財産」の範囲について相続人間で解釈が分かれ、争いに発展することもあります。
予防策:主要な財産は個別に特定して記載する(不動産は登記簿の地番・家屋番号、預貯金は金融機関名・支店名・口座番号)。加えて「上記以外の一切の財産」を包括的にカバーする条項を設ける。遺産分割協議書の書き方で紹介している記載例が参考になります。
ケース③:自筆証書遺言の形式不備で無効になる
自筆証書遺言には厳格な形式要件があり、1つでも欠けると遺言全体が無効になります。
無効になる典型的なパターンは以下のとおりです。
- 日付が不完全:「2026年4月吉日」は無効。「2026年4月17日」と特定が必要
- パソコンで作成:本文は全文自書が必要(財産目録のみパソコン作成可)
- 署名がない:フルネームの自書が必須
- 押印がない:認印でも有効だが、押印自体がないと無効
- 加除訂正の方法が不適切:修正液や修正テープの使用は不可。所定の方法で訂正が必要
予防策:公正証書遺言を選ぶか、自筆証書遺言の場合は行政書士に原案のチェックを依頼する。法務局の保管制度を利用すれば形式面の確認を受けられる。
ケース④:遺言執行者が指定されていない
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人です。遺言書に遺言執行者の指定がないと、以下の問題が発生します。
- 不動産の名義変更や預貯金の解約に相続人全員の協力が必要になる
- 相続人の中に非協力的な人がいると手続きが止まる
- 家庭裁判所に遺言執行者の選任を申し立てる必要がある(時間と費用がかかる)
予防策:遺言書に遺言執行者を指定する。信頼できる相続人のほか、行政書士や弁護士を遺言執行者に指定することもできる。専門家を指定すれば、手続きの確実性と迅速性が向上する。
ケース⑤:認知症発症後に作成された遺言の有効性争い
認知症の診断を受けた後に作成された遺言は、「遺言能力がなかった」として無効を主張されるリスクがあります。
遺言の有効性は「作成時点での判断能力」で判断されます。軽度の認知症であれば遺言能力が認められるケースもありますが、相続人の一部が「認知症だったから遺言は無効だ」と主張し、訴訟に発展するケースが増えています。
予防策:元気なうちに遺言を作成する。作成時の判断能力を証明するために、医師の診断書を取得しておく。公正証書遺言であれば、公証人が遺言能力を確認するため、有効性が争われるリスクが低くなる。
予防策一覧
| トラブル | 予防策 | 対応できる専門家 |
|---|---|---|
| 遺留分侵害 | 遺留分を計算して配分設計。代償金の準備(生命保険活用) | 行政書士(配分設計)+税理士(税務面) |
| 財産記載の曖昧さ | 主要財産を個別に特定記載+包括条項の設置 | 行政書士 |
| 形式不備 | 公正証書遺言の選択、または行政書士による原案チェック | 行政書士+公証人 |
| 遺言執行者の未指定 | 遺言書に遺言執行者を指定(専門家の指定も可) | 行政書士 |
| 遺言能力の争い | 元気なうちに作成。作成時の医師の診断書を取得 | 行政書士+医師 |
まとめ:「作るだけ」で終わらせない遺言を
遺言書は「書けば安心」ではなく、揉めないための設計が重要です。遺留分の配慮・財産の具体的な記載・形式要件の遵守・遺言執行者の指定・早期の作成という5つのポイントを押さえることで、遺言書が本来の役割を果たします。
遺言と合わせて、認知症になる前に済ませるべき法的手続きもご確認ください。
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